大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(ワ)12335号 判決 1990年6月05日

原告

石川嘉庸

原告

高橋満

被告

高円寺交通株式会社

右代表者代表取締役

上埜健太郎

右訴訟代理人弁護士

古澤昭二

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の申立て

一  請求の趣旨

1  原告らと被告との間で、被告が昭和六〇年三月二一日から実施している乗務員賃金規定の改定が無効であることを確認する。

2  被告は、原告石川に対し金一九四万三〇〇〇円、原告高橋に対し金一八〇万七〇〇〇円及びこれらに対する昭和六一年一〇月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2項について仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者双方の主張

一  請求の原因

1  被告は、肩書地で自動車による旅客運送業(タクシー事業)を営む会社であり、原告らは、その乗務員として雇用されている者である。

原告高橋は、月間運収の六二パーセントを賃金として支給する旨の新聞広告による募集に応じて、被告と雇用契約を締結した。

2  被告は、タクシー運賃の値上げに伴って乗務員賃金規定を改定し、昭和六〇年三月二一日から実施しているが、右改定には、その手続き及び内容において次のような違法があり、無効である。

(1) 被告は、乗務員賃金規定の改定に当たって、乗務員の中から選出された賃金交渉委員の意見を聴取したが、その過半数は、被告が任命し且つ班長手当てや当番手当てを支給している管理職たる班長であって、被告の利益の代弁者でもあり、労働者の利益を正当に代表しない者であった。また、賃金交渉委員の中には、被告の費用でタクシー乗務員として必要な運転免許証を取得した者もいた。

したがって、このような賃金交渉委員の意見を聴取してされた乗務員賃金規定の改定は、民法の双方代理の禁止に抵触し、心裡留保・無権代理に該当し、また、労働基準法一条、二条、九〇条に違反する。

なお、被告と賃金交渉委員との協議は、数十回にわたって行われ、原告高橋も、賃金交渉委員の一員であった時期があるが、被告は、協議の席上における原告高橋の発言を捉えて乗務停止五乗務、出勤停止五乗務の処分に付し、反対意見を封ずる脅迫を行った。このことは、乗務員賃金規定の改定に民法九六条違反の違法があることを意味する。

(2) 改定された乗務員賃金規定では、次のような変更があったが、いずれも、乗務員の待遇改善を目的とした運賃値上げの趣旨に反するばかりでなく、改定前の労働条件で雇用契約を締結した原告らの既得権を奪い、一方的に労働条件を不利益に変更するものである。

Ⅰ 一か月間の勤務時間が、隔日勤務制のもとで、一二乗務(一乗務一六時間で一九二時間。他に任意制の一乗務がある。)から完全一三乗務(二〇八時間)に延長され、労働者に不利益に変更された。

Ⅱ 出庫時間が午前八時で変更がないのに、帰庫時間のみが午前二時から午前三時に変更され、一乗務当たりの勤務時間が一六時間から一七時間に延長になった。

Ⅲ 一か月間の運収に占める賃金の歩合が次のように変更され、運収五〇万円以下の歩合がすべて五〇パーセントに切り下げられた上に、累進歩合給制が強化され、しかも、残業手当てや営業キロ手当てなどについては、運収が目標に達しないと賃金から差し引かれ、過労運転を強制するものとなっている。

(改定前)

三三万六〇〇〇円 五四パーセント

三六万円 五六パーセント

三七万円 五八パーセント

三九万円 六〇パーセント

四二万円 六一パーセント

四五万六〇〇〇円以上 六二パーセント

(改定後)

五〇万円以下 五〇パーセント

五〇万円 五五パーセント

五二万円 五七パーセント

五六万五〇〇〇円以上 六〇パーセント

Ⅳ その他、改定された乗務員賃金規定では、勤務手当てが廃止され、精勤手当てが減額され、反対に、深夜手当てや残業手当てが月間運収に応じて支給されるようになり、乗務曜日の偏りも大きくなって、労働者に不利益な内容となっている。

3  右のとおり、被告がした乗務員賃金規定の改定は、その手続き及び内容において違法かつ無効であって、原告らの雇用契約の内容を拘束しないので、原告らは、改定前の旧乗務員賃金規定に基づいて賃金の支払を受け得る権利を有するところ、被告は、その支払をしない。

そこで、被告は、債務不履行による損害賠償として、原告らに対し、昭和六〇年三月二一日から昭和六一年八月二〇日までの一七か月間に旧乗務員賃金規定に基づいて支払うべきであった賃金と新乗務員賃金規定に基づいて実際に支払った賃金との差額に相当する左記金員を支払う義務がある。

原告石川に対し 九四万三〇〇〇円

原告高橋に対し 八〇万七〇〇〇円

4  被告は、運賃値上げの趣旨に反して乗務員賃金規定を改定し、原告らの既得権を奪い、労働条件を一方的に不利益に変更した上に、原告らに対して、警告書を発して違反行為を強要し、或いは、他の乗務員への見せしめのため廃車間近の営業車に乗務させるなどの嫌がらせを行い、多大の精神的苦痛を与えた。

この損害を金銭に見積もると、原告ら両名の慰謝料は、いずれも一〇〇万円を下回らない。

5  よって、原告らは、被告との間で、昭和六〇年三月二一日から実施している乗務員賃金規定の改定が無効であることを確認すると共に、被告に対し、左記金員及びこれに対する弁済期到来後の昭和六一年一〇月八日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

原告石川につき 一九四万三〇〇〇円

原告高橋につき 一八〇万七〇〇〇円

二  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1は、原告高橋が雇用契約を締結した動機を除き、認める。右動機は知らない。

主張の新聞広告は、改定前の旧乗務員賃金規定に基づくもので、本件の乗務員賃金規定の改定によって変更になった。

2  同2の冒頭部分は、被告が、タクシー運賃の値上げに伴って乗務員賃金規定を改定し、昭和六〇年三月二一日から実施していることは、認めるが、その余は否認する。

乗務員賃金規定は、隔日勤務制をとり能率歩合給等の特殊性のある乗務員の賃金について規定したもので、乗務員の代表者との間で締結した乗務員賃金協定を受けて定められるものである。そして、右協定中に運賃改定があったときは労使双方の協議により改定する旨の条項があるところ、昭和五六年九月二日に一五・七パーセント、昭和五九年二月一日に九・五パーセントの運賃値上げ改定があったことから、労使の協議に基づいて乗務員賃金協定が締結され、更に、これを受けて被告が乗務員賃金規定を改定したものである。

3  同2の(1)は、被告が、乗務員賃金規定の改定に際し、その前提となる賃金協定締結のために賃金交渉委員の意見を聴取したこと、右交渉委員の中に班長が含まれていたこと、被告が、班長に対して、班長手当てを支給し且つ当番したときに当番手当てを支給していること、交渉委員の中に被告の費用でタクシー乗務員として必要な運転免許証を取得した者がいたこと、被告が原告高橋に対してその主張のとおり乗務停止等の処分をしたことは、いずれも認めるが、その余は否認する。

班長は、班別に被告から連絡事項があるときや乗務員の意見聴取等をする際の便宜のために設置されているもので、被告の管理職ではないし、これらを賃金交渉委員として選出したのは、すべて乗務員の自主的な判断によるもので、被告は関知していない。なお、賃金交渉委員は、隔日制勤務の関係から全部で二五名に及んだが、そのうち班長は一二名であった。また、被告の費用でタクシー乗務員として必要な運転免許証を取得した者の中には、原告石川も含まれている。

4  同2の(2)は、乗務員賃金規定の改定があったことは認めるが、その余はすべて否認する。

(1) Ⅰの勤務時間の延長について。

これは、本給、乗務給(乗務手当て)、無事故手当て、精勤手当ての支給の要件を、従来は「完全一二乗務したとき(一九二時間)」としていたのを「完全一三乗務したとき(二〇八時間)」と変更したことを問題にするものである。しかし、従来の一か月一二乗務制のもとでも、任意の一乗務制があって、原告らを含む従業員の殆どが一か月一三乗務を行っていたことから、本給等の算定を就労の実態に合わせたものに止まり、乗務員賃金規定をもって勤務時間を延長した事実はない。

(2) Ⅱの帰庫時間の変更について。

これは、無線タクシーの乗務員のほぼ全員から、午前二時から午前四時までの時間帯にタクシー無線の利用ができるようにして欲しいとの申出があったことから、被告が、東京乗用旅客自動車協会より、午前二時の帰庫を前提とした「B」ステッカーに代えて、午前四時の帰庫を意味する「C」ステッカーを購入して貼付したことを問題にするものである。しかし、午前二時以降の勤務については、従来から、就業規則に基づく時間外勤務として扱い、所定の残業手当てを支給していたもので、ステッカーを張り替えたからといって、この取扱自体に変更はない。

(3) Ⅲの賃金の歩合及びⅣの各種手当てについて。

新旧の乗務員賃金規定の間には、前述のとおり、二度の運賃値上げがあって、賃金規定の基礎となる事情が大きく変わっていることに加え、累進歩合給制のもとでの無謀運転や乗車拒否等の根絶を期する監督官庁の要望も受けていた。そのため、被告としては、本給等の固定給の賃金に占める割合を高めることとし、経営の実態等をもにらみつつ、賃金交渉委員との協議を経て、乗務員賃金協定を締結し、これを受けて乗務員賃金規定を改定したものである。

その主な内容は、本給を月額六万円から九万一〇〇〇円に、乗務給を四万八〇〇〇円から七万八〇〇〇円に、無事故手当てを一万二〇〇〇円から二万六〇〇〇円に、勤勉手当てを三五〇〇円から四〇〇〇円に、それぞれ増額し、旧規定になかった営業キロ手当てを新設するなどして、固定給の部門に配慮すると共に、これらとのバランスをとりながら歩合給を改定し、更に勤続給を廃止することとしたものである。したがって、乗務員賃金規定の改定により乗務員の賃金が不利益に変更されたかどうかは、運賃値上げに伴う合理的改定及び固定部分の増額等を総合的に判断しなければ決し得ないというべく、減額或いは廃止された手当てのみを取り上げて不利益変更をいうのは当たらない。

なお、被告の乗務員四五名について、乗務員賃金規定の改定の前後一年間の収入総額を対比したところ、原告高橋を含む三名は、乗務日数が少ないことから減額となっているが、これらを除く全員が旧規定当時よりも多額であった。

5  同3は、被告が旧乗務員賃金規定に基づいて賃金を支払っていないことは認めるが、その余は争う。

6  同4は争う。

第三証拠関係(略)

理由

一  請求の原因1の事実(原告高橋が雇用契約を締結した動機を除く。)及び同2の事実のうち、被告が、賃金交渉委員との協議を経て乗務員賃金規定を改定し、昭和六〇年三月二一日から実施していること、賃金交渉委員の中に被告が任命した班長が含まれていたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  (証拠略)によると、被告の乗務員は、二四時間営業制をとるタクシー会社の運転手として、隔日勤務を原則とし、その賃金等も能率歩合給を基本とする特殊な待遇を受けていること、そのような乗務員の賃金について定めたのが乗務員賃金規定であって、労使の協議によって締結される乗務員賃金協定を受けて被告が定めるものであること、乗務員賃金協定には、運賃の改定があったときは労使の協議により新たな乗務員賃金協定を締結する旨の規定が置かれていること、昭和五六年九月二日と同五九年二月一日に、それぞれ、一五・七パーセント、九・五パーセントの運賃値上げ改定があったことから、被告は、賃金交渉委員との多数回にわたる協議を経て新たな乗務員賃金協定を締結し、これに基づいて乗務員賃金規定を改定し、乗務員代表者の同意書を添付して就業規則としての届け出を労働基準監督署にした上、昭和六〇年三月二一日から実施していることが、それぞれ認められ、この認定に反する証拠はない。

三  ところで、原告らは、賃金交渉委員の過半数は、被告が任命し且つ班長手当て等を支給している管理職たる班長であって、被告の利益の代弁者でもあり、労働者の利益を正当に代表しない者であったと主張する。

(証拠略)によれば、班長は、乗務員に対する被告の意思の伝達や乗務員の意見聴取或いは事務担当者が不在となる夜間の当直事務の処理などのために、一〇ないし一二名単位の班ごとに被告が任命するもので、そのための特別の手当てを支給されているが、被告の機密事項には関係がなく、いわゆる管理職ではないこと、また、班長を含む賃金交渉委員の選定は、すべて乗務員の自主的な判断に委ねられていたもので、被告がこれに関与した事実はないことが、それぞれ認められ、原告高橋本人尋問の結果中、この認定に反する部分は採用しない。

右事実によれば、被告が班長に特別の手当てを支給しているのは、担当している職務の内容に照らして相当なもので、特に不当な利益を与えているとか、或いは、班長が被告の利益の代弁者でもあるとはいえず、したがって、このような班長が賃金交渉委員に含まれていたからといって、乗務員の意見が正当に代表されていないとはいえないから、乗務員賃金協定の締結、ひいては、これを受けてされた乗務員賃金規定の改定の手続きに瑕疵があるとはいえない。

のみならず、乗務員賃金規定は、就業規則の一種であって、その作成又は変更については、労働基準法九〇条一項により、労働者の意見を聴取することが必要であるが、その同意を得ることまでは要求されていないから、乗務員賃金規定の改定の前提となった乗務員賃金協定の締結に何らかの手続き上の瑕疵があったとしても、それによって、就業規則たる乗務員賃金規定の効力が影響を受けることはない。

また、原告高橋が、賃金交渉委員の一員であったことがあるところ、被告から乗務停止五乗務、出勤停止五乗務の処分を受けた事実のあることは、当事者間に争いがない。しかし、弁論の全趣旨によると、右処分の理由となったのは、原告高橋が、協議の席上で被告の担当者が会社の金を横領している旨の発言をしたためというもので、相当の根拠があり、いかなる意味でも発言を封ずるための脅迫とは認められないから、右処分がされたからといって、乗務員賃金規定の改定に影響があるとはいえない。

更に、証人西條昭市の証言によれば、被告が、その費用でタクシー乗務に必要な運転免許証を取得させたのは、タクシーの運転免許証を有しない者にも就労の機会を与えるためで、乗務員の確保策の一つであることが認められるから(原告石川もその一人である。)、賃金交渉委員の中にそのような者が含まれていたからといって、特に問題とはならない。

四  原告らは、乗務員賃金規定の改定によって、勤務時間が延長されたというが、証人西條昭市の証言によれば、旧乗務員賃金規定のもとでは、一か月一二乗務制を原則としていたが、当時でも、その他に任意制の一乗務があり、原告らを含む従業員の殆どが一か月一三乗務を行っていたことから、新乗務員賃金規定では、このような就労の実態を踏まえて、賃金算定の基準を一三乗務としたものに止まり、乗務員賃金規定をもって勤務時間を延長した事実はないことが認められる。

また、原告らは、被告がタクシーに貼付するステッカーを午前二時を帰庫時間とするものから午前四時を帰庫時間とするものに張り替えたことを捉えて、一乗務当たりの勤務時間が延長されたと主張する。しかし、(証拠略)によれば、右ステッカー張り替えの経緯は、乗務員賃金規定の改定後に、無線タクシーの乗務員の殆どの者から、午前二時以降もタクシー無線の利用ができるようにして欲しいとの要望があったことから、これを受けた被告が、単にタクシー無線の利用時間を延長させるために、東京乗用旅客自動車協会から午前四時を帰庫時間とするステッカーを購入して貼付したものに止まり、それ自体は勤務時間とは関係がなく、午前二時以降の勤務については、ステッカーの張り替えの前後を通じて時間外勤務として処理していたことが認められる。

原告高橋本人尋問の結果中、以上の各認定に反する部分は採用しない。

五  ところで、(証拠略)を比較すると、乗務員に支払われる給与、手当ての種類及びその金額は、新旧の乗務員賃金規定間ではかなりの相違のあることが認められる。

そこで、この点をどのように評価するかが問題となるが、証人西條昭市の証言と弁論の全趣旨によれば、被告は、乗務員賃金協定の締結に当たっては、固定給の部分を多くし歩合給の割合を少なくすることによって能率本位の無謀な運転や乗車拒否等をなくすると共に、乗務員から不満のあった各種手当ての見直しをするという基本方針に立って協議に臨み、その線で協定を締結し、これを受けて乗務員賃金規定の改定を行ったことが認められるし、タクシー運賃の値上げがあれば、それに応じて運収が増えるので、運収に占める賃金の歩合が変更になるのは、ある意味では当然であるから、原告ら主張のように、運収五〇万円以下の歩合がすべて五〇パーセントに切り下げられたからといって、それだけで賃金が不利益に変更されたとはいえない。

また、(証拠略)によれば、新乗務員賃金規定で定められた給与、手当ての中には、勤続給や精勤手当てのように、削除され又は一乗務当たりの金額が減額されたものもあるが、その反面、本給(一〇乗務で月間運収が五〇万円以上の場合)、乗務給(乗務手当て)、無事故手当て、営業キロ手当て、小型車手当て、一時金(賞与)などのように、増額され又は新設されたものもあることが認められるから、原告ら主張のように、削除され又は一乗務当たりの金額が減額されたものだけを取り上げて、賃金が不利益に変更されたということができないこともいうまでもない。

結局、本件のような賃金体系のもとでは、個々の給与や手当ては全体の中の部分にすぎないもので、乗員賃金規定の改定も不可分一体のものとしてされたことが明らかであるから、これに含まれる個々の給与や手当てごとに不利益に変更されたかどうかを比較しても意味がなく、乗務員が支給を受けている給与、各種手当ての総額をもって比較する以外にはないところ、(証拠略)によれば、乗務員賃金規定の改定の前後一年間を通じて被告に在籍していた乗務員四五名の総収入を比較したところ、原告高橋ら三名は、勤務時間が少なくなったことから減収になったが、他の乗務員四二名は、すべて増収になったことが認められるから、乗務員が支給を受けている賃金が本件の乗務員賃金規定の改定によって不利益に変更されたとはいえないというべきである。

六  次に、不法行為についてみるに、乗務員賃金規定の改定において、被告が、原告らの既得権を奪い、労働条件を不利益に変更した事実のないことは、前述のとおりであるし、(証拠略)によると、警告書の交付は、他の乗務員の平均の走行距離や運収と比較して大差のある場合に、指導教育のために出す書類であって、別段、相手方の名誉や信用に影響を及ぼすものではないし、過労運転を強制するものでもないと認められるから、その当否は別として、未だに不法行為を構成するとはいえない。また、被告が、他の乗務員に対する見せしめのために、原告らに廃車直前の営業車を運転させたことを認めるに足りる証拠はない。

七  以上にみたところによれば、本件の乗務員賃金規定の改定には、原告らが主張するような違法も無効事由もなく、また、被告が原告らの名誉又は信用を害する不法行為をしたともいえないから、その請求はすべて失当として排斥を免れない。

よって、原告らの請求をすべて棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田豊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例